はじめに — 除雪の合間に45枚
2月のある休日、北海道は大雪でした。朝から除雪に追われつつ、合間に大学の講義スライドを作らなければいけない。締め切りは翌週。PowerPointで45枚のスライドを一から作るとなると、普通に3〜4日はかかります。
「無理だな」と思いながら、ふと試してみたのがAIにHTMLでプレゼンを作らせるという方法でした。結果、除雪の合間の半日で45枚が完成。しかも休憩タイマーや画像クリック拡大といった、パワポでは面倒な機能まで付いている。
正直、自分でも「これはちょっとヤバいぞ」と思いました。パワポで数日かかる作業が半日で終わってしまう。しかも品質は同等かそれ以上。この体験を共有したくて、この記事を書いています。
なぜHTMLプレゼンなのか
まず、PowerPointの「限界」について考えてみましょう。PowerPointは優れたツールですが、いくつかの構造的な問題を抱えています。
PowerPointの限界
- ファイルが重い — 画像やアニメーションを入れると、すぐに数十MBから数百MBになる。メール添付の上限に引っかかることも日常茶飯事
- 環境依存 — WindowsとMacでフォントが変わる、バージョンによってレイアウトが崩れる、そもそもPowerPointを持っていない人には見せられない
- バージョン管理の難しさ — 「最終版」「最終版_v2」「最終版_v2_修正済み」というファイル名地獄。誰がいつ何を変えたのか追跡困難
- 共同編集の制約 — Microsoft 365で共同編集は可能だが、同時に同じスライドを触ると競合が発生しやすい
HTMLプレゼンの利点
一方、HTMLで作成したプレゼン資料には、以下のような利点があります。
- ブラウザだけで閲覧可能 — Chrome、Safari、Edge、スマートフォン、タブレット。インターネット接続さえあれば、専用ソフト不要で誰でも見られる
- 軽量 — テキストベースなので、45枚のスライドでも数百KB程度。メール添付も、通信速度が遅い環境でも問題なし
- インタラクティブ — ホバーエフェクト、アコーディオン、タブ切り替えなど、PowerPointでは難しいインタラクションを自然に組み込める
- バージョン管理 — Gitで管理すれば、誰がいつ何行目を変えたか完全に追跡可能。過去の任意の時点に戻すことも一瞬
- 無料ホスティング — GitHub Pagesなどを使えば、無料でインターネット上に公開可能。URLを共有するだけ
もちろん、すべてのプレゼンをHTMLにすべきという話ではありません。しかし、「社内研修資料」「セミナー資料」「技術説明資料」など、更新頻度が高く多人数に共有する資料については、HTMLプレゼンが圧倒的に優れています。
AIに作らせるとどうなるか
HTMLプレゼンの最大の障壁は、「HTMLやCSSの知識がないと作れないのでは?」という点でしょう。答えはNOです。AIが書いてくれます。
データとエンジンの分離設計
私が採用しているのは、「データとエンジンの分離」という設計思想です。具体的には、プレゼンの内容(テキスト、構造、順番)をJSONやMarkdownなどのデータファイルに記述し、それを表示するHTML/CSS/JavaScriptのエンジン部分を別に用意します。
この設計の何がいいかというと、内容の修正がデータファイルの編集だけで完結することです。HTMLやCSSに触る必要がありません。新しいスライドを追加したければ、JSONファイルにオブジェクトを1つ追加するだけ。順番を入れ替えたければ、配列の順序を変えるだけです。
半日で45枚完成の流れ
実際に半日で45枚のスライドを完成させた流れを、5つのステップでご紹介します。
- 構成案の作成(30分) — AIに「このテーマでプレゼンの構成案を作って」と依頼。章立てと各スライドの概要が出力される
- データファイルの生成(1時間) — 構成案をもとに、AIがJSONデータファイルを自動生成。各スライドのタイトル、本文、箇条書き、注釈がすべて構造化される
- エンジンの構築(1時間) — HTML/CSS/JavaScriptのプレゼンエンジンをAIが生成。レスポンシブ対応、キーボード操作、プログレスバーなどの機能も含む
- 内容の精査と修正(1時間) — 人間がデータファイルを確認し、表現の微調整や事実確認を行う。この工程が品質を決める最も重要なステップ
- デザイン調整と仕上げ(30分) — 配色、フォントサイズ、余白などの視覚的な微調整。AIにCSSの修正を依頼
合計で約4時間。PowerPointで同じ品質のスライドを45枚作る場合、デザインの調整、図版の配置、アニメーションの設定などを考えると3〜4日は必要です。AIとHTMLの組み合わせで、制作時間を1/5以下に短縮できたことになります。
中小企業での活用シーン
「HTMLプレゼンなんて、IT企業の話でしょ?」と思うかもしれません。しかし、中小企業にこそ大きなメリットがあります。
社内研修資料
社内研修は、同じ資料を何度も使い回し、少しずつ内容を更新していくものです。PowerPointファイルを更新するたびにバージョン管理が混乱しますが、HTMLなら簡単です。社内サーバーやクラウドにホスティングすれば、従業員はURLにアクセスするだけで常に最新の研修資料を閲覧できます。
さらに、HTMLならスマートフォンでも快適に閲覧できるため、現場作業の合間にスマホで研修内容を復習する、といった使い方も自然にできます。
営業プレゼン
取引先にプレゼンする際、URLを送るだけでOKです。相手がPowerPointを持っているかどうかを心配する必要がありません。タブレットでもスマートフォンでもPCでも、同じURLで同じ見た目のプレゼンが表示されます。
また、取引先ごとにデータファイルを少しカスタマイズするだけで、パーソナライズされた提案資料を量産することも可能です。AIに「A社向けにこの3つのポイントを強調して」と指示するだけで、専用のデータファイルが生成されます。
会社説明会
採用活動の会社説明会資料も、HTMLプレゼンとの相性が良い用途です。自社サイトに常設しておけば、説明会に参加できなかった学生にもURLを共有するだけで見てもらえます。また、会場でプロジェクターに投影する場合も、ブラウザを全画面表示にするだけなので、PowerPointのインストールやバージョン問題に悩まされることがありません。
注意点
もちろん、HTMLプレゼンがすべての場面で最適というわけではありません。以下の点には注意が必要です。
- 社外への正式提出物はPowerPointが必要な場合がある — 行政への提出書類や、取引先が「PowerPoint形式での提出」を指定している場合は、従来通りPowerPointで作成する必要があります。ただし、この場合もまずHTMLで内容を作成し、最後にPowerPointに変換するという手順が効率的です
- チームの習熟度を考慮する — HTMLやJSON、Gitに馴染みのないメンバーが多い場合、導入初期の学習コストが発生します。まずは1つのプロジェクトで試験的に導入し、成功体験を積んでから展開するのが賢明です
- デザイン重視の場合はPowerPointの方が向いていることもある — グラフィックデザイナーが作り込んだビジュアル中心のプレゼンは、PowerPointやKeynoteの方が効率的な場合があります。HTMLプレゼンは、テキストと構造化データ中心のプレゼンに最も向いています
大切なのは、「PowerPoint vs HTML」という二項対立ではなく、目的と状況に応じて最適なツールを選ぶことです。社内向け・更新頻度が高い・多デバイス対応が必要、という条件が揃えば、HTMLプレゼンが最良の選択肢になります。
まとめ — パワポに戻れなくなった話
あの大雪の日以来、私はほとんどのプレゼン資料をHTMLで作るようになりました。パワポを開くのは、取引先から「PowerPoint形式で」と指定されたときくらいです。
一番大きいのは、「内容に集中できる」ということ。パワポだと、フォントサイズを揃えたり、図形の位置を微調整したり、アニメーションの順番を設定したりと、内容以外のことに時間を取られがちです。HTMLプレゼンなら、内容(データ)だけ書けば、見た目はAIとCSSが勝手に整えてくれる。
もちろん、これが唯一の正解というわけではありません。でも、「プレゼン資料を作るのに丸2日かかっている」という方には、騙されたと思って一度試してほしい。きっと世界が変わります。
吉田中小企業診断士事務所